緑オリーブ法律事務所ブログ

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 駐車場内の事故については、保険会社が過失割合を50:50だと主張してくること多いといわれます。
 少し前に解決した駐車場内の事故についても、保険会社が事故の一方当事者Aさんに50:50だと説明し、それに納得できないAさんが当事務所に相談にいらっしゃいました。


 事案は、とあるコンビニの駐車場で、今まさに駐車区画から退出し、通路に進入しようとしていたB車と、それより前に駐車区画から退出していて、道路に出るために通路を走行していたA車が衝突した事故(物損事故)でした。
 本件は、A車・B車とも後退していたという点がやや特徴的ですが、駐車場内の事故としてはありがちな態様の事案だと思います。


 保険会社がこれを50:50だと主張してきた理由は、よく分かりません。保険会社はとにかく、「駐車場内の事故は50:50だ」と考えているように思えます。
 自動車を駐めて人が乗降することを目的とした駐車場は、通行を目的とした道路とは性質が異なりますから、過失割合算定の基礎となる自動車や歩行者の注意義務の内容や程度も、道路のそれとは自ずと異なってくるでしょう。しかし、だからといって50:50にしなければならない理由にはなりません。
 一口に駐車場内の事故といっても、状況はさまざまです。これまでの裁判例でも、その状況に即した判断がなされてきています。


 実は、私たち法律実務家が交通事故の過失割合を検討するときに参照する書籍『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準』<東京地裁民事交通訴訟研究会 編>(別冊判例タイムズ)において、「駐車場内の事故」という事故類型が設けられ、その過失相殺率の認定基準が示されたのは、平成26年5月発行の『全訂5版』からでした。それまで(『全訂4版』まで)は「駐車場内の事故」については記載がなかったわけで、一律に50:50としておくことが、保険会社としては簡便だったのかもしれません。


 ちなみに、「駐車場内の事故」について、『全訂5版』には、以下のような記載があります(500頁)。


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 駐車場内の通路は、当該駐車場を利用する四輪車が当該駐車場内を移動するために不可欠な設備であるから、四輪車が駐車場内の通路と駐車区画との間を出入りすることは当然に予定されている。
 したがって、通路進行車は、駐車区画に駐車していた四輪車が通路に進入してくることを常に予見すべきであり、駐車区画退出車との関係においても、同車の進行を予見して安全を確認し、当該通路の状況に応じて、同車との衝突を回避することができるような速度と方法で通行する義務を負うと解される。
 他方で、駐車区画退出車は、通路に進入する前の段階では駐車区画内で停止しているのであるから、通路進入車よりも容易に安全を確認し、衝突を回避することができる。また、駐車区画退出車は、通路への進入に際し、通路における他の四輪車の進行を妨げることになるのであるから、法25条の2第1項のような道路と道路外との間の出入りに関する法令上の規制を受けない場合であっても、通路に進入する際の注意義務として、進入しようとする通路の安全を確認し、通路進行車の通行を妨げるおそれがある場合は通路への進入を控える義務(法25条の2第1項に準ずる注意義務)を負うと解される。
 双方の四輪車が負う基本的な注意義務の内容は上記のとおりであるが、駐車場退出車により重い注意義務が課されるため、事故が発生した場合は、原則として駐車区画退出車が相対的に重い過失責任を負うこととなる。
 本基準は、双方の四輪車に上記の各注意義務に違反した過失があったことを前提としている。また、双方の四輪車がそれぞれ前進であるか後退であるかにかかわらず適用される。


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 そして、通路進行車と駐車区画退出車の衝突事故である同書の設例【335】(501頁)には、この場合の過失割合の基本基準が、


通路進行車30 : 駐車区画退出車70


と設定されています。


 この基準は双方の四輪車がそれぞれ前進であるか後退であるかにかかわらないのですから、本件事故は設例【335】にあてはめて検討すべきだといえます。
 とすると、本件における過失割合は、


通路進行車=Aさん30 : 駐車区画退出車=Bさん70


を基本に考えることになります。


 以上のことを私から保険会社に申し入れたところ、保険会社がすぐに過失割合30:70を受け入れてくれたため、本件は解決しました。


 保険会社から提示された交通事故の過失割合に納得がいかない場合にも、一度弁護士に相談してみてください。(浜島将周)

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